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東京高等裁判所 昭和32年(ネ)2318号 判決 1964年3月30日

控訴人 国

代理人 岡本元夫 外四名

被控訴人 株式会社協和銀行

主文

1原判決を次のとおり変更する。

2控訴人の第一次請求を棄却する。

3被控訴人は控訴人に対し金二〇〇〇万円及びこれに対する昭和二四年七月一日以降完済まで年五分の割合による全員を支払え。

4控訴人の第二次請求中その余の請求を棄却する。

5訴訟費用は、第一、二審を通じこれを三分し、その一を控訴人の、その余を被控訴人の各負担とする。

事  実<省略>

理由

一、債権者代位の要件について。

いずれも成立に争いのない甲第一号証、同第六号証、同第一七号証、同第一九号証、同第二六号証の一、二、方式及び趣旨によりいずれも真正の公文書と推認すべき同第二、三号証の各一、二、同第四号証の一ないし三、原審並びに当審証人川村哲の証言によれば、訴外鉱工品貿易公団は、その解散前訴外川村哲に対し、同訴外人が右公団職員として在任中昭和二四年四月下旬から同年七月中旬頃までの間右公団の公金を横領したことによつて蒙つた金四九五万四九一四円の損害賠償請求権を有したが(右請求権については、前記公団から訴外川村哲を相手取つて東京地方裁判所に訴訟が提起され、昭和二七年二月四日午前一〇時の口頭弁論期日に同事件被告訴外川村哲において認諾した結果、その旨の認諾調書が作成されている。)、同公団はその後解散し(解散の事実に関しては当事者間に争いがない。)右損害賠償請求権は、昭和二五年一二月九日政令第三七三号鉱工品貿易公団及び繊維貿易公団解散令(昭和二七年政令第六号による一部改正以後のもの)第一五条第二項の規定により、通商産業大臣の承認を受け、同条第一項に基き控訴人国に帰属するに至つたこと及び右訴外川村哲は前記横領にかかる金員の内金三〇〇〇万円を昭和二四年六月三〇日訴外福田利明に対し利息月五分、弁済期同年七月三〇日の約で貸渡したことをそれぞれ肯認することができる。それ故、若し訴外福田利明が被控訴銀行に対し控訴人主張のような債権を有するとすれば、右債権は訴外川村哲においてこれを代位行使し得べく、控訴人は同訴外人の右代位権を代位行使し得るものと解すべきである。

二、控訴人の第一次請求について。

(1)  訴外福田利明と被控訴銀行神楽坂支店間の従前の取引関係

その用紙及び行印がそれぞれ被控訴銀行神楽坂支店備付の用紙及び印顆を用いたものであることに争いのない甲第五号証の一ないし四(預金通帳)、いずれも成立に争いのない同第七号証同 第一六号証、同第二〇号証、同第二四、二五号証、乙第五号証、同第八号証原審並びに当審証人柴田博の証言によりいずれも真正に成立したと認める乙第三、四、六、七、九、一〇号証、原審証人小野田晋、同赤坂端、原審並びに当審証人三木晋吉、同福田利明、前顕柴田証人(ただし一部)の各証言をそう合すれば、

(イ)  訴外福田利明は、かねて取引のあつた訴外株式会社東京銀行の資金課長訴外小野田晋から勧められて、自己の有する資金を被控訴銀行神楽坂支店に預金し、同支店から右預金により拡大した資金枠内で訴外国産鉄工株式会社(以下単に国産鉄工と略称する。)ないし新日本海事株式会社(以下単に新日本海事と略称する。)に貸付を行わしめ、貸付を受けた者からいわゆる裏日歩を取り立てることを企て、昭和二四年三月四日国産鉄工の経理担当重役訴外三木晋吉と相携えて被控訴銀行神楽坂支店に至り、同支店長訴外田中聰、同支店出納係訴外柴田博、同支店貸付係訴外勝島武一ら(以下田中支店長ら三名と称する。)と会談折衝の末、「福田が同支店に対してする預金を資金として、同支店から三木の関係する国産鉄工ないし新日本海事に貸付を行い、福田は右貸付を受けた者から月五分の割合によりいわゆる裏日歩の支払を受けること、福田は右預金につき預入後一ヵ月間は払戻請求をしないこと、預金預入若しくは払戻請求をする場合は必ず福田から三木その他被貸付会社関係者に連絡すること」等の約定が、預金者側福田利明、銀行側前記田中支店長ら三名及び被融資者側前記訴外三木晋吉の三者間に成立し、即日右約定に基く第一回の預金として、福田から前記田中支店長ら三名に対し、普通預金として同支店に預入れる趣旨を以て、訴外東京銀行振出にかかる金額金五五〇万円の自店宛小切手(いわゆる預金小切手)及び「向後一ヵ月間右預入金の払戻請求をしない」旨記載した福田利明名義の名刺一枚をそれぞれ交付し、前記田中支店長ら三名から福田に対し同日付右預入金五五〇万円受入記入済の正規の普通預金通帳(前顕甲第五号証の一ないし四。以下本件預金通帳と称する。)一冊を交付したこと、

(ロ)  右田中支店長ら三名は、前記預入金を受取つた際一応は福田利明名義の普通預金入金伝票を作成したけれどもこれに基く元帳記入を行わないで直接右預金を訴外国産鉄工の預金口座に振込む方法により、正規の貸付手続を経ないで同訴外会社にこれを利用させることを共謀し、前記福田、三木が同支店を辞去した後、訴外、勝島に福田名義の前示入金伝票を破棄させた上、代りに国産鉄工名義普通預金口座への同額の入金伝票(乙第三号証。収納印は訴外柴田。)を作成し、前記小切手が右口座に振込まれたものとして所定の各手続を了したこと、

(ハ)  訴外国産鉄工は、右振込金額を被控訴銀行神楽坂支店からの融資と考えて利用し、その後これを返済する趣旨で同支店に対し小切手資金五五〇万円を払込んだ上、昭和二四年三月三一日同支店宛右同額の持参人払小切手(乙第四号証)を振出交付し、前記田中支店長ら三名は、翌四月一日訴外福田利明から同訴外人名義の前記普通預金五五〇万円の払戻請求を受けるや、同訴外人に正規の払戻請求書を作成提出させた上即日同支店振出にかかる金五五〇万円の自店宛小切手(乙第五号証)を以て右預金を払戻し、本件預金通帳にその旨記入したこと、

(ニ)  その際、約定の裏日歩は同支店応接間において国産鉄工代表者から訴外福田利明に支払われたが、同訴外人は前記柴田博に対し右払戻にかかる金五五〇万円に対する銀行利息を貰いたい旨申入れ、訴外柴田から「銀行は年二回、二月及び八月に利息をつけるが、決算期でない現在、解約をしないかぎり利息は支払わない。」旨の説明を受けてこれを納得し訴外三木晋吉から右利息に相当する金額の支払を受けたこと、

(ホ)  更に、昭和二四年四月一九日訴外福田利明は、前同様の趣旨で金四七〇万円(他店券)を前同様の場所で前記田中支店長ら三名に交付し、同人らは、同訴外人名義の前示普通預金通帳に右受入を記入して同訴外人に交付しながら、右預金についての入金伝票を作成せず、これに代え国産鉄工名義の当座預金口座に対する右同額の入金伝票(乙第六号証)を作成し、翌二〇日右当座預金口座に振込まれたものとして所定の各手続を了したこと、

(ヘ)  訴外国産鉄工は右当座預金に振込まれた金四七〇万円を融資として利用した上、これを返済する趣旨で、前同様にして同年同月三〇日被控訴銀行神楽坂支店宛右同額の小切手(乙第七号証)を振出交付し、前記田中支店長ら三名は、即日訴外福田利明の払戻請求に応じ、前同様払戻請求書を徴した上前記支店振出の右同額の自店宛小切手(乙第八号証)を以て払戻し、本件預金通帳にもその旨記入をしたこと、

(ト)  また、訴外福田利明は、同年五月二五日金四五〇万円、同年六月三日金一〇〇万円を、それぞれ前同様の趣旨を以て被控訴銀行神楽坂支店応接室で前記田中支店長ら三名に交付し、同人らは、その都度訴外福田利明名義の前示普通預金通帳に右各受入を記入して同訴外人に交付しながら、右預金についての入金伝票を作成せず、これに代え訴外国産鉄工名義の当座預金口座につきそれぞれ同額の入金伝票(乙第九、一〇号証)を作成して右口座に振込の手続を了してこと、

(チ)  訴外福田利明は、以上の取引関係において、同訴外人から預金として前記田中支店長ら三名に交付した金員が訴外国産鉄工ないし訴外新日本海事の関係事業に対する融資の資金となるものであつて、右融資につき被控訴銀行神楽坂支店に返済がないかぎり、実際上払戻ができないものであることは了知していたが、前記田中支店長ら三名に交付した金員につき訴外福田利明名義の預金口座に入金手続がとられず、直接訴外国産鉄工の預金口座に入金手続がとられた事実は全く知らず、従つて、被控訴銀行神楽坂支店と訴外国産鉄工間の貸付関係はともかく、自己と同支店との間の預金関係はすべて正規の手続に従い有効に成立したものと信じて疑わなかつたこと、

をそれぞれ肯認するに足りる。

然りとすれば、前示(イ)(ホ)(ト)の各預入金は、訴外福田利明と被控訴銀行神楽坂支店において預金関係業務を担当する係員らとの間に預金とする趣旨で授受されたものであつて、たとえ右係員らの真意が他に存したとしても訴外福田利明はこれを知るに由なかつたものと認めるのが相当であるから、右各預入金については同訴外人と被控訴銀行との間に同銀行を受寄者とする消費寄託が有効に成立したものと解すべきである。

(2)  本件係争の金三〇〇〇万円の預入について。

前顕甲第五号証の一ないし四、成立に争いのない乙第一一、一二号証、前顕福田証人の証言、右証言により真正に成立したと認める乙第一三号証、前顕証人柴田博(ただし一部)、原審並びに当審証人平野新蔵、前顕証人三木晋吉、同川村哲、原審証人樋口美津雄、同関山延の各証言をそう合すれば、

(イ)  訴外福田利明が訴外川村哲から前認定のように金三〇〇〇万円を借受けたのは、これを前示(1)の(イ)の約定に基く預金として被控訴銀行神楽坂支店に預入し、同支店からこれを訴外国産鉄工等に貸付けさせようという目的にいでたものであつたので、昭和二四年六月三〇日訴外川村哲から右金三〇〇〇万円を、株式会社富士銀行室町支店振出にかかる右同額の小切手(乙第一二号証)で受取るや、約旨に従い訴外国産鉄工取締役訴外三木晋吉と同道して同支店に至り、同支店応接間で同支店出納係訴外柴田博(当時田中支店長は既に転任し、新支店長平野新蔵が着任していた)に対し、前示約定に基き福田利明の普通預金口座に預入したい旨を述べて右小切手を示すと共に、さきに右口座に預入した前示(1)の(ト)の各預金残高合計金五五〇万円の払戻を求め、その旨の払戻請求書を作成交付したこと、

(ロ)  然るところ、柴田博は、福田利明に対し、「右金五五〇万円払戻につき当行の預金小切手を切ることは明日でないと不可能であるから、若し急ぐなら、確実な小切手だからこの小切手で受取つておいてもらいたい」旨申向け、訴外三木晋吉が持参した新日本海事振出、被控訴銀行神楽坂支店宛金五五〇万円の小切手(乙第一一号証)を払戻として受領するように勧め、その結果、銀行内部の手続につき必ずしも明るくない訴外福田利明が、「支払の確実な小切手なら現金同様であるから、敢えて銀行の預金小切手に切り替えてもらうまでもない」という考えから、たやすくこれを預金払戻の手段として受領することを承知し、訴外三木晋吉から直接これを受領するや、即時右応接間で、前記金三〇〇〇万円の小切手も従来の預金同様自己名義の預金として受入れて貰えるものと誤信している訴外福田利明から、その誤信に乗じて右小切手を受取つた上、隣接の事務室に赴き、訴外福田利明名義の前記通帳に同日付を以て金三〇〇〇万円の受入及び金五五〇万円の払戻の各記入を行い(この間に、応接間では、訴外三木晋吉から同福田利明に対し小切手を以て裏日歩の授受がなされた)、これを福田に手交したこと、

(ハ)  而して、従前の例によれば、右三〇〇〇万円の小切手は、訴外柴田らの手により、直接訴外国産鉄工の預金口座に振込まれる筈のところ、同訴外人は金額が大きいのでいささか恐れをなし、訴外三木晋吉に対し他の銀行の口座に振込んでくれといつてそのまま手交し三木はこれを日本興業銀行の国産鉄工当座口に振込んだが、訴外福田はこれらの事情を全く知らなかつたこと、

(ニ)  なお、右日本興業銀行当座口に振込まれた金三〇〇〇万円の内金二〇〇〇万円は、

かねて前記田中支店長等三名が、訴外樋口美津雄から被控訴銀行神楽坂支座に預入れた金二〇〇〇万円のいわゆる導入預金につき、正規の預金通帳を発行交付しておきながら元帳に右受入の記入をせず、導入によつて融資を受くべき訴外国産鉄工自身同支店に右同額の無記名定期預金をしたものの如く伝票を操作して諸記帳をととのえた上、右無記名定期預金を担保する形式で国産鉄工に正規の貸付を行つたところ、訴外樋口美津雄から前示導入預金の払戻請求を受けそうな形勢となつたので、前記田中支店長ら三名の指図によつて、訴外国産鉄工が前記樋口美津雄から右導入預金の通帳を買取つた買取り資金

として使用され、残余は国産鉄工、新日本海事らの関係する沈船引揚事業等に使用されたが、今日いずれも国産鉄工ないし新日本海事からこれを回収することは事実上不可能の状態にあること、

(ホ)  また、訴外国産鉄工は、前記金三〇〇〇万円の小切手を訴外柴田博から受領して後約定の一ヵ月の期限が迫つても右金額を被控訴銀行神楽坂支店に入金する見込が立たなかつたので、昭和二四年七月三一日田中支店長の後任である新支店長平野新蔵に対し、「国産鉄工振出、興業銀行宛金三〇〇〇万円の小切手を被控訴銀行神楽坂支店当座口に預入するから、右小切手が交換により資金化するのをまたず、とりあえず同支店において右金額相当のいわゆる過振りに応じてもらいたい」旨交渉したが拒絶され、これを知つた訴外福田利明は、銀行側がこれに応じないならば、自分は訴外川村哲に一ヵ月内に返済することを約して自己名義の前記預金通帳及び押印済みの払戻請求書を預けてある関係上、国産鉄工からの入金如何に拘らず、被控訴銀行に対し正式に払戻を要求するほかないと考え、翌八月一日同銀行神楽坂支店に金三〇〇〇万円の払戻請求書を提出し、預入の事実なき故を以て払戻を拒まれるや直ちに同銀行本店に赴いて厳重交渉をし、以上の経過を通じ、訴外柴田博に交付した前示金三〇〇〇万円の小切手が銀行内部においては預金として取扱われていなかつたことを初めて覚知するに至つたこと、

(ヘ)  他方、被控訴銀行神楽坂支店は、右同日急遽国産鉄工に対する前示正規貸付金債権とこれが担保となつていた前記無記名定期預金債務とを対当額において相殺して処理を遂げ、その結果、実質的にこれを見れば、被控訴銀行はその出納係柴田博が訴外福田利明から小切手によつて受領した金三〇〇〇万円のうち二〇〇〇万円によつて、訴外樋口美津雄に対する前記導入預金払戻の債務を免れ且つ訴外国産鉄工に対する前記正規貸付のいわゆる焦げつきを免れたものであること、をそれぞれ認定することができる。前顕柴田証人の証言中以上の認 定に反する部分は、いずれも前示各証拠と対比し信用し離い。

(3)  以上認定の諸事実からすると、本件金三〇〇〇万円の小切手は、訴外福田利明において従前同様被控訴銀行神楽坂支店に預金する意思で、従前から、同訴外人の預金を扱つて来た同支店出納係柴田博に交付したものであつて、右柴田博の真意がこれを預金として受領するになかつたことは訴外福田利明の察知しなかつたところであること明白であるけれども、同訴外人としては、当時すくなくとも右柴田博がこれを預金として受領する真意なきことを知り得べきであつたといわざるを得ない。

何故ならば、柴田は右金三〇〇〇万円の小切手を受領するにあたり、従前の預金残高五五〇万円の払戻は訴外新日本海事振出、被控訴銀行神楽坂支店宛小切手で受取るよう福田に勧めているけれども、若し右金五五〇万円が正規の預金として取扱われているとすれば、現金若しくは従前のように同支店の自店宛小切手で支払われるのが当然であり、いかに支払確実とはいえ第三者の同支店宛小切手で払戻すが如きことは通常あり得べきでないから、訴外福田利明がもう少し慎重であれば、当時田中支店長が更送し平野新支店長が着任していたことも考え合わせて、「前示金五五〇万円は銀行内部は正規の預金として取扱われていないので新支店長のもとでは払戻のための自店宛小切手が振出せないのではあるまいか」との疑問を抱き、ひいては、新規預入の前記三〇〇〇万円の小切手についても、柴田の真意はこれを預金として受領するものでないことを覚知することができたであろうと思われるからである。

(4)  然らば、本件金三〇〇〇万円については、民法九三条但書の適用により訴外福田利明と被控訴銀行との間に控訴人主張の如き預金関係(消費寄託契約)は有効に成立しなかつたものと解すべきであつて、これが有効に成立したことを原因とする控訴人の第一次請求は失当として排斥を免れない。

三、控訴人の第二次請求(予備的請求)について。

(1)  本件金三〇〇〇万円については、前記預金関係が有効に成立しなかつたことは前示のとおりであるが、これによつて訴外福田は、右金額相当の損害を被つたものと認めるのが相当である。何故ならば、同訴外人は訴外川村哲との間の前記消費貸借契約において受取つた金三〇〇〇万円の小切手を、訴外柴田に交付したに拘らず、所期の預金関係が成立せず、被控訴銀行に対しては預金債権を取得し得なかつたのみならず、右小切手は訴外柴田、同三木晋吉の手を経て興業銀行の訴外国産鉄工当座預金口座に振込まれ、右当座預金は、前示の如く消費されて今日これを回収する余地のないこといずれも前認定の如くであるからである。訴外福田の訴外川村かう借受けた金三〇〇〇万円が、右川村において鉱工品貿易公団から横領した金員であつたという事実は、右損害額に何ら消長を及ぼすものではない。

(2)  而して、右のような損害を生じたのは、被控訴銀行の使用人である同銀行神楽坂支店の出納係柴田博が、同支店における自己の担当業務を行うにあたり、真実預金として受入れる意思がないに拘らず、訴外福田利明において真実預金として受入れられるものと誤信して交付した前示小切手を騙取し、これを訴外国産鉄工代表者三木晋吉に交付して利用させたことに起因するものであるから、被控訴銀行は民法七一五条一項により訴外福田利明の覆つた前示損害につき賠償の責に任すべき義務がある。

(3)  ただし、右損害の発生については、訴外福田利明も、前記訴外柴田において預金として受入れる真意なきことを知り得べきであつたのに、慎重を欠いたためこれを覚知しなかつた点において過失があるものと認められるから、右過失を参酌し、被控訴銀行が同訴外人に賠償すべき金額は金二〇〇〇万円とするのが相当である。

(4)  然らば、控訴人は訴外川村哲、同福田利明を順次代位して、被控訴銀行に対し右損害賠償金二〇〇〇万円及びこれに対する前記小切手騙取の翌日である昭和二四年七月一日以降完済まで民事法定利率である年五分の割合による遅延損害金の支払を求め得べく、控訴人の本件第二次請求は右の限度において正当として認容すべきであるがその余は失当として棄却を免れない。

四、なお、控訴人の第三次請求(予備的請求。控訴の趣旨には明記されていないが、弁論の全趣旨に徴すれば当番においてもまたこれを推持するものと認められる)は、前示第二次請求が全部理由なしとされる場合に限り判断を求める趣旨で申立てられたものと解するのが相当であるから、判断を加えない。

五、以上の次第であるから、原判決が控訴人の第一次請求を棄却したのは相当であるけれども、第二次請求を全部棄却したこと及び第三次請求の判断に及んだことはいずれも失当であつて、本件控訴は一部その理由があるから、原判決を本判決主文第二項ないし第四項の如く変更すべきものとし、訴訟費用につき民訴九六条、九二条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 菊池庚子三 川添利起 花淵精一)

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